ピラミッドなど世界有数の観光資源を有するのに、国内治安の問題で観光客が寄り付かなくなったエジプトという国。人々の生活は近年の動向に左右され、経済は大打撃を受けている。その末端で貧困に苦しむのがスラム街の住民たちだ。
エジプトの首都カイロで最も大規模なスラム街がマンシェイヤ・ナセル地区だ。その実情に深く迫っていこう。
エジプトの貧困問題
エジプトは昔、アラブ諸国の中で最も裕福な国の一つだった。いち早く工業化に成功し、国民の多くは安定的な職と収入を得ることができた。そんな順調な経済成長を邪魔したのが無能な政治体制だ。
エジプトの権力者はなぜか独裁者タイプが非常に多く、無茶苦茶な政策で国民生活をかき乱す。そのたびに国内では革命やクーデターが起こり、経済活動がストップして後進する。
クーデターは海外企業から見ればリスクでしかない。そうして海外からの投資は徐々に遠のき、倒産する工場が増えて失業者が街にあふれた。現在のエジプトの一人当たりGDPはスリランカやフィリピンと同程度。かつての栄光を考えれば寂しい状態だ。
マンシェイヤ地区の生活と犯罪
カイロの中心部広域に広がるマンシェイヤ地区は、行政が把握できずに何万人もの住民が暮らすスラム街だ。この地域の建物はほとんどが違法に建てられた建築で、ただの素人がレンガを組み合わせて作っただけ。そのため住環境は最悪クラスで、たびたび崩落による死亡事故が起きる。
不法占拠の違法建築に、行政が上下水道など用意するはずがない。金があるものは水道をどこかから引っ張ってきて生活するし、貧しいものの糞尿は垂れ流しになることも多い。そのため周囲はひどい悪臭に包まれ、カイロの熱気とともにスラム街を覆いつくす。
「カイロ中のゴミが集まる」と言われるこの場所は、ゴミの回収や再利用が主な産業になっている。毎日膨大な量のゴミが運ばれてくるものの、まともな処理施設など持たないスラムにそれを処理する能力などない。
結果的にマンシェイヤは常にゴミまみれ。まるで全員がゴミ山の中で暮らすような状態で、衛生状態は常に最悪。どんな感染病にかかっても文句は言えない環境だ。
それでも意外なことに、マンシェイヤの治安は比較的良好に保たれている。それは汚職にまみれた警察のおかげじゃない。マフィアに類する自警団の活躍だ。警察も立ち寄らないスラム街を、彼らが治安維持しているのだ。
もちろん観光客が不用意に立ち寄ればスリなどの軽犯罪に合う確率は高い。しかし他の凶悪スラムのように、ほとんど理由もなく惨殺されるような可能性は低いのだ。
また、エジプトには国民的な娯楽として大麻という存在がある。半ば公然と使用される大麻だが、旅行者が不用意に近づくのは危険が大きい。警官も金を取れるところからはむしり取るので、最終的に何十万円も脅し取られる可能性がある。