すさまじい勢いで経済発展を成し遂げた中国という国。上海や北京に住む人々の暮らしは本当に豊かになり、中流層の所得は倍増した。しかしこれはあくまでも限られた世界の話。都市部と農村部を切り離すことでできた幻想でしかないのだ。
歪んだ政治・経済体制の裏には犠牲となる人々が数多く存在する。大都市の地下に住むネズミ族はまさにその被害者。実情に深く迫っていこう。
【北京の地下住民「ネズミ族」と止まらない格差】中国では、国よりも、格差の是正よりも、個人の権利や利益を最大化するかどうかに基準を置いて判断する。 https://t.co/PSj1SbKidF #日経ビジネス pic.twitter.com/UmRCMqX8KE
— 日経ビジネス (@nikkeibusiness) June 9, 2016
中国の貧困問題
中国では大都市への人口流入を抑えるため、生まれながらに人が2種類にわけられる。「都市戸籍」と「地方戸籍」の2つだ。地方戸籍を持つ人間は、いわばカーストが低い人々。大都市へ続く道路には検問所が設置されており、そこで多くの地方出身者が弾かれる。
運よく上海や北京に来ることが出来ても、まともな職につけるのは都市戸籍を持つ人たちだけ。地方出身者は工場での単純労働などで低賃金の仕事を見つけ、その日生きるのが精いっぱいくらいの暮らしを強いられる。
いわば不法移民のような扱いの彼らが、一般的なアパートを借りることはできない。アパート契約の際に戸籍をチェックされ、地方出身者だとわかれば家主が拒否するのだ。
そこで自然発生的に生まれたのが地下住宅だ。大都市の地下にはかつて防空壕として掘られた地下空間が無数にあり、ここを改造して格安の賃貸物件にしてしまったのだ。
ネズミ族とはそんな地下住人の暮らしぶりを形容してできた言葉だ。ネズミのように地下を這いずり回る彼らの暮らしはすさまじい。
ネズミ族の生活と犯罪
想像してみればわかると思うが、光の届かない地下で長期間生活するのは酷く困難なことだ。換気口すらロクに無い地下施設は常に湿気が充満し、夏は蒸し風呂のように暑くなる。シャワーも滅多に浴びられないため、住民たちの体臭で目が痛くなるほど。
各部屋はベッド1台がギリギリ入るくらいの狭さで、当然そこに窓はない。真っ暗にしたときの閉塞感は凄まじく、閉所恐怖症の人なら1分も我慢できないだろう。ネズミ族はその場所で何年も寝起きして暮らすのだ。
ネズミ族たちはそれぞれ調理器具なども地下に持ち込み、そこで火を使った調理をする。当然ながら火災の危険がそこにはあり、実際に大惨事に巻き込まれたネズミ族も存在する。
幸いなことにネズミ族の間で凶悪な犯罪が蔓延することは少ない。違法DVDを売るなど軽犯罪はよくあるだろうが、地下での強盗や殺人、レイプなどが起きないというのは安心できる部分だ。その大きな要因は麻薬が蔓延していないことにあるだろう。
ネズミ族の人たちは日々労働に耐えており、麻薬に溺れる時間やお金なんて持っていない。彼らの多くは農村に住む家族に仕送りをしており、地下の部屋だって家賃を払わなければいけない。生きることに必死なのだ。
ネズミ族の変遷と立ち退き
北京や上海の地下にスラム街が存在するということは、多くのメディアにより明らかになった。これは中国にとって見過ごせない問題。農村部の人たちの人権を踏みにじっていることがバレてしまう。
そこで政府はネズミ族の住む地下スラムを次々と閉鎖していく。しかしスラム住民に対する補償などは一切なく、ただ住居を追われて出ていくだけ。彼らはまた別の地下部屋を見つけ、そこに引っ越しするだけだ。
大都市の地下空間はそれほどまでに大規模で、たとえ政府でも一挙に壊滅させることは不可能。ネズミ族の暮らしはしばらく変わることがないのだろう。