ウユニ塩湖という世界屈指の絶景を持ち、世界中から観光客の訪れるボリビア。しかし美しい景色の裏側には、巨大な貧困の闇が隠されている。南米最貧国のスラム街は、救いようのない現実で埋め尽くされているのだ。
最大都市ラパスの郊外に広がるエルアルトは、ボリビアでも最大規模のスラム街だ。その実情に深く迫っていこう。
エルアルトの成り立ち
ボリビアの最大都市ラパスは、世界で最も標高の高い首都(正確には首都ではない)と呼ばれ、その生活は決して楽なものではない。生活に適した平地は山々に囲まれたわずかな盆地で、そこを支配階級の白人たちの土地とした。植民地時代の出来事だ。
ラパスの街は白人が住む盆地を中心に発展していき、人口拡大に伴って街は斜面に沿って広がっていく。当然中心部に近い土地のほうが人気が高く、山の上に行けば行くほど生活は不便になる。
エルアルト地区はそんなラパス郊外の山の上、裕福な市内中心部を見下ろすように、取り囲むように形成された場所だ。そこにはラパスでも最も貧しい人たちが住み、スラム同然の荒廃した暮らしがそこにはある。
ここで見えてくるのがボリビアの露骨な格差の実態だ。実はボリビアには亜鉛や天然ガスなどの資源が豊富にあり、富裕層の所得は先進国の人並みに高い。それなのに恩恵は末端に一切行き渡らず、貧しい人たちは食料にも困るほどの暮らしを強いられる。
国連が定める「世界最貧国リスト」の中には南米で唯一ボリビアが名を連ね、新生児死亡率などの数字はアフリカの各国と比べても同等という水準。1日に1ドル以下の所得で生活をしているものも多い。これがボリビアのリアルなのだ。
エルアルトの生活と犯罪
貧困層ばかりが住むエルアルトにまともな仕事なんてほとんどない。結果的に悪に手を染めるものが続出している。観光客狙いのスリや置き引きなんてかわいいレベルだ。銃器を手にした強盗だって珍しくはない。
不幸なことにボリビアには「コカ」という植物が良く育ち、これが凶悪な麻薬「コカイン」の原料となる。この国には粗悪品から輸出向けの高級品まで様々なコカインが揃っており、これがエルアルトの治安をさらに悪化させる原因となる。
ドラッグで酩酊した人間に善悪の区別など一切ない。欲望のままに強盗やレイプといった凶悪犯罪を犯し、抵抗すれば弾みで殺人にも発展する。貧しいスラム街の人同士の殺し合いなど地獄そのものだ。
粗悪なドラッグを購入することもできないストリートチルドレンなどの貧者は、シンナーによって一時的に空腹を紛らわせる。ご存知の通りシンナー中毒を経験した脳は修復不可能。子供たちの人生はそこで終了する。
アクセスの悪いエルアルトには警察すらも滅多に近づかない。そのため治安は自警団が守るのだが、この自警団もけっこうタチが悪い。悪者だと決めつけられれば、いくら誤解であってもリンチの上に殺される。市民裁判の怖いところだ。
だから間違っても旅行者がエルアルトに近づくなんて考えないほうがいい。強盗に財布やスマホを取られるだけならいいが、リンチされるのは誰だって避けたいだろう。むやみに写真を撮っている姿が住民の怒りを買えば、そこで死刑判決が下っても誰にも文句はいえない。
馬鹿な旅行者の中には「ボリビアのスラム街を歩いてみた」などのブログ記事を掲載しているものがいるが、こんなものは頭のおかしい行為でしかない。ただの異常者と呼んで差し支えないだろう。
ボリビアの貧困を描いた映画
ボリビアの貧困の実態に触れるなら「コンドルの血」という映画が秀逸だ。アメリカからの途上国支援部隊が、現地の女性に無許可で不妊化手術を行った問題を扱った作品で、実際の事件をもとに描かれているストーリーだ。
無許可での不妊化手術はショッキングそのものだが、それほどまでに貧困の問題が根深く、対処のしようがない現状もまた事実。救いようのない貧困の闇が垣間見られる。