エルサルバドルと聞いて何かイメージできる日本人はどれくらいいるだろうか?「なんとなく危険」とは想像する人も多いだろう。そのイメージは完全に正しい。ただ危険で他に何もないのがエルサルバドルという国の実情だ。
中でも首都のサンサルバドルは狂気の街。ギャングに支配され、警察が一般人を殺害するこの街の実情に迫っていこう。
エルサルバドルの歴史と貧困問題
エルサルバドルは他の中南米の国々と同様に、古くから欧米による植民地支配に苦しめられてきた。この国はスペインが占領し、原住民は奴隷として過酷な労働を強いられ、伝染病で多くの人々が死んでいった。
苦労して勝ち取った独立後も、この国の苦難は終わらない。指導者は常に無能で軍事クーデターが頻発し、そのたびに国内のインフラが破壊されて経済がストップする。
結果的に現在でも主な輸出産品はコーヒーとインディゴという貧弱な品ぞろえ。国中に仕事が無く、慢性的に失業者が街にあふれる状況が完成した。そこにアメリカで疎まれる存在だった不法移民が大量に強制送還されてきた。
アメリカであらゆる悪事に手を染めた元不法移民のエルサルバドル人は、サンサルバドルの治安を大いに乱す。大きく2つのギャングが街を2等分し、相次ぐ抗争で一般住民を巻き込んで死亡者を出す。
ギャングを壊滅させるため、国はギャングのことを「テロリスト」と呼び、問答無用に逮捕、殺害していった。強権的な姿勢はギャングの怒りを買い、警察を殺すギャングが増える。こうしてこの街は内戦状態に突入する。
人口がたったの600万人しかいないこの国で、一日30人が殺人に合う。一か月に900人、1年に1万人以上が殺されているのだ。これはどう考えても異常な事態。
国の指導者は庶民のためにギャングと戦っているのではない。ただ熱くなって感情的に攻撃しているだけだ。そしてそんな無能な指導者のせいで、危険な目に合うのはいつもスラムの貧しい住民たちだ。
サンサルバドルスラムの生活と犯罪
サンサルバドルの貧困街に住む人たちの暮らしは最悪レベルだ。常にギャングの支配下に置かれるため、露店や商店は毎週みかじめ料を徴収される。金を支払ったからといって店をトラブルから守ってくれるわけではないが、支払いを拒めば店は壊されて殺される。
ギャングにとって住民の命なんてどうでもよく、貧しい地域内でも強盗や殺人といった凶悪犯罪が横行。暴力が支配するこの国に女性の人権なんて文字はなく、女性は女性だという理由だけで殺害される。
10代前半の幼い少女ですらレイプの被害に合い、女性の7割以上がレイプされた経験を持つ。女性にとって地獄としか言えない状況が今でも続いているのだ。
警察とギャングとの抗争が激化して以降、住民たちは夜間はもちろん、日中でも自由に外出することができなくなった。ロクに仕事をすることもできないため、貧困層の暮らしはさらに悪くなる。
仕事も希望もないため、自然と少年たちはギャング入りを志すようになる。最近では12歳程度の少年や少女までメンバーとして迎えられ、麻薬の輸送などの捨て駒として利用されている。
エルサルバドルを描いた映画
エルサルバドを舞台にした作品としては「サルバドル/遥かなる日々」が有名だ。アメリカ人ジャーナリストによる実体験を元にした映画で、内戦状態の国内の緊迫感が伝わってくる。しかしこれはあくまでもハリウッドムービー。
現実の凄まじさを知るなら冒頭で紹介しているVICEのドキュメンタリーを見るのが良いだろう。若干のグロ描写もあるため閲覧注意だが、悲しいまでに凄惨なエルサルバドに触れることができるだろう。
サルバドル/遙かなる日々 <特別編> [ ジェームズ・ウッズ ]