ペルーの強盗スラム街バリアーダスの実情を知る

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ペルーといえばマチュピチュやナスカの地上絵など、世界的に有名な観光地が目白押しだ。そのため日本から訪れる観光客の数も多く、比較的なじみ深い国と言えるかもしれない。しかしこの国が抱える深刻な貧困問題はあまり知られていない。

ペルーの首都リマにある大規模スラムは、この国のいびつな経済構造や貧困の実態を象徴する場所だ。スラムの形成とその生活についてみていくことにしよう。

バリアーダスの成り立ち


by Oscar Andrés Pardo Vélez

バリアーダスとは現地の言葉で非合法街区といった意味。つまりスラムそのもの。ペルーにおけるバリアーダスの歴史は、1950年代以降の急激な都市工業化によって始まった。

昔は細々と農業や狩猟を行い、物々交換によって助け合って生きてきた農村の人々。彼らの暮らしもグローバル資本主義の荒波にさらされ、やがては生活が不可能になるほどの貧困に襲われる。

農村部で生活ができなくなった農民は、わずかな希望をもって都市部へ流入する。しかしまともな教育も受けていない農民にできる仕事など皆無。都市に来ても仕事はほとんどなく、ホームレス状態でリマに居座った。

彼らは公園や空き地を見つけて、拾ってきたビニールシートや板で簡素な家をつくる。それがごく少数の人の話なら問題にならないが、ペルーの場合は規模が違った

ペルーには中規模以上の都市が限りなく少なく、都市人口の約半分は首都のリマが占める。重要な経済の拠点もリマに極集中しており、そこに全農村から貧しいひと達が押し寄せたのだ

極端な言い方ではあるが、リマのある場所にホームレスの簡易住居が一軒建てられた場合、次の日には倍の2軒、その次の日には4軒、8軒、16軒と無限増殖していくと言われるほど。

そんなわけで日本のホームレスのように公園や河川敷を細々と占拠するだけでは済まなくなり、やがてはリマの郊外全域を不法占拠するような巨大スラムが完成した。これがリマのバリアーダスだ。

バリアーダスの生活


by SuSanA Secretariat

農村からほとんど無一文でやってきた農民の暮らしは完全なホームレス状態から始まる。現在のバリアーダスのほとんどの場所はただの砂漠の上で、一般には「誰の土地」なんて問われない不毛の大地だ。そこにゴザを敷き、寝転べばバリアーダス市民の仲間入りだ。

エリア全域が不法占拠によって形成されているため、まともな公共サービスなんて受けられない。砂漠に上下水道なんて通っているほうがおかしいし、ゴミ収集なんて来るはずもない。

彼らはゴミ拾いや荷物運びなど最低ランクの仕事を得て、一日1ドル以下の所得を手にする。その金で必死で生き延び、生活環境を徐々に改善していくのだ。

ゴザとビニールシートだけだった家はセメントやレンガで補強されていき、どこから引いてくるのか水道もいつの間にか出来上がっている。無一文で出てきたホームレス農民も、真面目に働けば10年後にはけっこう立派な家を持つようになるという。

バリアーダスと犯罪

南米のスラムといえばドラッグに汚染されたイメージがあるだろう。確かにバリアーダスにもドラッグの影はあるものの、ブラジルのファベーラのようなギャングの抗争は起こらないし、スラム内の治安はかなり良好に保たれているように感じる。

バリアーダスの住民はもともと罪のない農民たち。彼らが悪に手を染めることは稀なのかもしれない。バリアーダス住民同士の強盗や殺人、レイプなどもかなり少ないようだ。ここはひとつ安心できる部分だろう。

しかし外国人観光客が相手となれば話が違う。彼らは部外者の侵入に対してシビアに反応し、金持ち相手の犯罪なら許されるという意識すら感じられる。一日1ドル以下で生活する彼らにとって、海外旅行ができる外国人なんて夢のまた夢だ。

外国人がバリアーダスに入り込めば瞬時に強盗に合うし、バリアーダス以外の地域でも油断はできない。すぐに金品を差し出して刺激しないように接すれば危害は加えられないだろう。

一番いけないのは抵抗すること。財布やカメラ、スマホを取られるのは悔しいだろう。だけど命まで取られるよりマシなはず。相手の顔をジッと見たり、スマホで証拠写真を撮ろうとするなど言語道断。相手が欲しいのは金だけだったのに、保身のために殺人を犯してしまう恐れがある

だからペルーへ渡航の際は決してバリアーダスには近づかず、夜の一人歩きは避けるなどの行動を心がけてほしい。間違っても「バリアーダスへ行ってみた」など馬鹿な記事を書くブロガーの真似などしてはいけない。

バリアーダスを描いた映画はない

ペルーのバリアーダスは映画の題材になりにくい静かなスラムだ。そこにはスリリングな銃撃戦やマフィアの抗争などなく、ただ貧しい人たちの生活があるだけ。こうした有名にならないスラムこそ、外部からの手が差し伸べにくく苦しい実情が長く続く。

バリアーダスそのものを描いた映画はないものの、「悲しみのミルク」という作品がペルーの貧しい村を舞台にしており、リアルな人々の暮らしが垣間見られる。静かな詩のような映画だが、そこからペルーの空気感を感じてほしい。