未だ謎に包まれた部分の多いカリブ海の国々。遠く離れた日本からわざわざ旅行に来る人も少なく、東洋人が街を歩けば奇異な目で見られるほど。明るく楽天的な国民性は素晴らしく、キレイな海に囲まれた楽園という一面も存在する。
しかしこの国にも救いようのない貧困の闇がある。ハイチでも最悪のスラム街シテ・ソレイユの実情に深く迫っていこう。
ハイチの貧困問題
ハイチの歴史は世界でも類を見ないほどの悲惨さだ。スペインによる植民地支配により原住民は虐殺され、大量の黒人が奴隷として使われた。黒人たちが反乱を起こして独立するが、黒人指導者は独裁者となり国を私物化。
相次ぐクーデターや武力衝突の末、やっとまともな大統領が誕生する。未来に向けて一歩一歩進み始めた時に起きたのが、史上最悪の2010年ハイチ地震だ。この地震により31万人がハイチ国内で死亡した。
地震により各省庁が倒壊したことで、長年にわたって政府機能が事実上停止していた。こうなればもう経済なんて死んだも同然。街には失業者があふれ、今日食べるものすら手に入らずに絶望する。
政治体制が不安定な小国ゆえに、外国企業が参入することなどあり得ない。国内産業と言ってもバナナ栽培か漁業くらいしかなく、数百年前から何の進歩もしていない。こうして終わりのない貧困の連鎖が続いていく。
シテ・ソレイユの生活と犯罪
ハイチの中でも最悪のスラム街シテ・ソレイユは、人口が20万から30万人と言われる絶望的に巨大な街だ。人口30万人といえば東京都目黒区くらいの規模だ。目黒区民全員がスラム住民と思ってもらえば想像しやすいだろう。
もともとこの地区には肉体労働者たちが平和に居住していたのだが、1991年のクーデターにより状況が一変。アメリカがハイチ製品の購入を完全にボイコットしたせいで、彼らの仕事が完全に消滅したのだ。
もともと経済規模が極端に小さいハイチにおいて、彼らに転職先など存在しなかった。肉体労働者たちは極貧化してホームレスになっていく。空き地を不法占拠して小屋を建て、不法スラムが出来上がっていったのだ。
シテソレイユに国家権力は及ばず、実質的にギャングが支配する体制となっている。ギャングは30以上のグループに分かれており、権力争いの小競り合いが絶えない。彼らは白昼の街中でも銃撃戦を始めるため、たびたび一般市民が流れ弾で死亡する。
ハイチ地震後にはこの地域でコレラが蔓延した。それもそのはず、シテ・ソレイユには下水設備が一切なく、住民の排泄物は垂れ流し状態。伝染病にとってはこれ以上ない最高の環境だ。
各国のNGOが建設した病院内は常に地獄の様相。コレラ患者は酷い下痢になるため、ベッドには穴があけられて下にはゴミ箱を設置。ベッドの上で排便できるようになっている。
強盗や殺人、レイプなど日常茶飯事のシテ・ソレイユでは、死体が転がっていたって誰も驚かない。あらゆる凶悪犯罪が横行し、それを取り締まる人間すらいない環境。考えただけで寒気がする。
このような場所にもし外国人旅行者が立ち入ればどうなるか。強盗に財布やスマホを取られるだけならラッキーだろう。最悪の場合は麻薬中毒者に無意味に惨殺される可能性もある。
ハイチの貧困を描いた映画
ハイチは国民一人当たりのNGOの数が世界一というよくわからない称号を持っている。NGOによる支援というと善意の塊のようだが、実際には国民の自立を妨げる要因にもなっている。「ポバティーインク」で描かれるのはそんな不都合な真実の物語だ。
日本の若者でも「途上国支援をしたい」という者がいるが、多くの場合彼らの善意は途上国の役に立たない。それどころか足かせとなり自立を奪うきっかけとなり得るのだ。途上国支援に興味のある方には必見の内容になっている。