欧米各国の中でも治安が安定し、住みやすい国として知られるカナダ。確かに豊かで安定した側面が大半を占めるのは事実だが、その裏側で貧困に苦しむ人たちがいるのも確かだ。
バンクーバー市街地のど真ん中に位置するヘイスティングストリートは、そんなカナダの貧困が集約された場所。スラムと定義できるかは微妙だが、その実態に迫っていこう。
カナダの貧困問題
近年の世界的な所得格差の進行により、カナダのホームレス人口は増加を重ねる。2018年の調査では、バンクーバーのホームレスの数は2000人を超え、その大半がヘイスティングストリートを拠点としているという。
2000人のホームレスというと、途上国の巨大なスラム問題からすれば笑えるような小さな規模。しかしここは世界一住みやすい都市バンクーバー。しかもホームレスが集まるヘイスティングストリートは街の超中心部に位置して、各国の大使館や主要な観光スポットに接している。
観光客が闊歩するそのすぐ裏に、膨大な数のホームレスが住む場所があるというのは確かに問題だろう。
ホームレスたちがヘイスティングストリートに集中する理由は、行政による支援体制による。炊き出しや毛布の支給などがヘイスティングストリート周辺で行われるために、地理的な理由でこの場所が住処となったのだ。
ヘイスティングストリートと犯罪
ヘイスティングストリート周辺では、粗悪で安価な麻薬が比較的簡単に手に入る。一時的にでも過酷な現実から目をそらしたいホームレスたちの多くは麻薬を乱用。結果的に薬物中毒者が大量発生している。
ドラッグで酩酊した彼らに善悪の区別はない。金とドラッグのためなら強盗なんて当然の行為。はずみで殺人に発展することもあるだろう。そんな背景もあって、周辺の住居や商店は分厚い鉄格子でガードされている。
日本の常識からすれば考えられない話だが、ヘイスティングストリートには薬物中毒者のために、安全な注射器を支給したり、致死量に至らないための指導を行う立派な施設が存在する。
「まず薬物を辞めさせるべきだろう」というのが当然の批判だが、そんな正論では解決しない問題があるのだ。この施設に関してはカナダ国内からの批判も多いが、とにかくホームレスたちの命を守っていることは確かだ。
貧困に喘ぐ女性はドラッグを手に入れるため、躊躇なく体を売る。結果的に周辺では違法売春が横行。夜にヘイスティングストリートを訪れればそんな様子は一目瞭然だ。
狭い範囲での犯罪の発生率は北米でも最悪と言われ、観光客が安易に入り込んで良い場所ではない。特に夜間の立ち入りはやめてほしい。
ヘイスティングストリートの変遷
ここ数年では治安が悪化し続けるヘイスティングストリートだが、行政はこの問題に大規模な対処をしている。ホームレス向けの立派な仮設住居を建設し、補助金付きで新たな暮らしを支援しているのだ。
仮設住宅ですべての住民が救われるわけではないし、麻薬の問題はそのあとも続くことだろう。しかし彼らが幸運だという事実は変わらない。途上国のスラム住民と比べればその格差は絶大。世の中は決して平等ではないのだ。
カナダ政府によるホームレス支援は素晴らしい。だが世界の貧困問題の現状を考えれば、何ともいえない気持ちになるのも事実。