アルゼンチンの凶悪麻薬スラム街ビジャ31の実情を知る

日本からは遠く離れた南米の国アルゼンチン。サッカーくらいしかイメージがないという人も多いだろう。しかしこの国にも解決が遠い貧困問題があり、スラム街では人々が不自由な暮らしを強いられる

ビジャ31はアルゼンチンでも最悪クラスの凶悪スラム。そのリアルな実情に迫っていこう。

ビジャ31の成り立ち


by Ralf Steinberger

ビジャ31の歴史は1930年頃に始まる。前年にアルゼンチン全土を襲った大恐慌の結果、多くの労働者が職を失い、都市には職も家も持たない失業者が大量発生した。

政府は失業者対策として鉄道などの大規模な公共事業を始める。貧しい失業者達は低賃金で鉄道工夫となり、鉄道駅周辺に粗雑な小屋を建てて住み着いたこれがビジャ31の始まりだ

スラムは不法占拠同然で形成されていったため、上下水道や電気などの公共サービスはほとんど受けられない。住民は盗電によって電気を確保し、水は外から買うなどの方法で生き延びていった。

ブエノスアイレスの街は何十年もかけて見違えるほど発展していくが、ビジャ31は経済発展の恩恵など受けられない。それどころか周りの発展との対比で、貧困地域としての実情が浮き彫りになる

ブエノスアイレスでも最大のレティーロ駅のすぐ横に、スラムが広がっている実情は闇が深い。アルゼンチンの歪んだ経済実態が見て取れるかのような光景だ。

ビジャ31で横行する犯罪


by Metro Centric

鉄道駅やバスターミナルのすぐそばにあるビジャ31は、地域住民でさえ近づかない無法地帯だ。実際にビジャ31内には警察も滅多に立ち入らず、そこで行われる犯罪の多くは表沙汰にならないという。人が毎日何人殺されているのかも把握されないのだ。

貧しく厳しい生活環境から目をそらすため、ビジャ31ではドラッグが横行。ドラッグの取引にトラブルがあればすぐに殺人が起こるし、酩酊したドラッグ中毒者は殺人も強盗もレイプも何でもする

不審人物から身を守るため、スラム内のあらゆる建物や商店は重厚な鉄格子が装着され、住民でさえ日が暮れればむやみな外出は控えるほどだ。

そんなビジャ31内に外国人観光客が立ち入ればどうなるか。運が良ければ身ぐるみはがされて終わるだろうが、最低限の善悪もわきまえない人間に捕まれば即死は免れない。

実際に近年起きた事件として、フランス人観光客がビジャ31に隣接する観光地で写真を撮っていた際に強盗に襲われた例がある。何十万円もするカメラを守るため、彼は強盗に抵抗してしまった。結果的にナイフで何か所も刺されて即死した。

日本大使館からの情報によると、ビジャ31の周辺エリアでケチャップ強盗なども多発しており、実際に日本人観光客も被害にあっている。この場所の危険は日本で考えられるようなレベルではなく、本当に絶対に近づいてはいけないレベルなのだ。

ネット上にはバカなバックパッカーが「スラム街のビジャ31に行ってみた」などの記事を公開しているのを見かけることがあるが、これは人格を疑うような変質行為。ただ「スラムを歩いたけど平気だったよ」と友達に自慢したいだけの人間なのだろう。

一部の現地旅行会社が「貧困街ツアー」などを行っているが、これに参加してビジャ31に立ち入るのさえ危険が大きい。金を払って出入りしていた業者が殺害された事件も起こっているのだ。この場所に立ち入る以上、何が起きても本当におかしくない実態がある。

ビジャ31の変遷

政府からも市民からも敬遠され続けたビジャ31も、ようやく2016年頃から風向きが変わり始める政府はビジャ31の改善のため多額の予算を計上し、2017年にはスラム内の住民が国に住民登録され、公共サービスを受けられる権利を得た。

実際にスラム住民の暮らしが劇的に良くなる日は遠くないことだろう。貧困の連鎖が断ち切られることを願うばかりだ。

ビジャ31出身のモデルの物語

このスラムには素晴らしいシンデレラストーリーがある。その主役は今やアルゼンチンを代表するファッションモデルとなったダニエラさんだ。

ダニエラさんは生まれた頃からビジャ31で過ごした。彼女の家族はゴミ拾いで成形を立てる貧しい家庭ダニエラさんは学校に通うこともできず、毎日毎日ボロボロの服装でゴミを拾って生活していた。

そこで偶然出会ったのがある女性ファッションデザイナー。彼女はダニエラさんの美貌と才能を見出し、ファッション業界へといざなった。結果的にダニエラさんはモデルとして大成功。家族も含めてゴミ拾いの貧しい現状から抜け出すことになった。

しかし当然ながら、こんなシンデレラストーリーは滅多に起こることではない。現実は現実であり、夢はいつまでも夢の中にある。

ビジャ31を描いた映画

ビジャ31の過酷な実情を知りたいなら「エレファンテ・ブランコ」が秀逸だ。ブエノスアイレスに赴任した二人の神父が目撃するスラムの実態は、あまりにも過酷で衝撃を受ける。そこで描かれるスラムの描写に過度な誇張などなく、むしろ映画用にマイルドにしてあるほどだ。

スラムの実態を知りたいなら映画を見ること。決してビジャ31に立ち入ろうなんて考えないでほしいそれは自身の身の安全の問題だけじゃない。動物園の動物扱いされるスラム住民の立場になって考えてほしい。